マザー2 〜ギーグの逆襲〜

ジャンル:RPG
メーカー:任天堂
定価:¥9800
発売日:1994年8月27日
備考:NP(ニンテンドーパワー)のラインナップに加えられている

ゲームの内容:糸井重里(以下、敬称略)がシナリオを書いたRPG。舞台は現代のアメリカで、 超能力を持つ、赤い帽子をかぶった普通の少年が、女の子や科学少年、オリエンタルな少年という仲間を見つけて 地球を支配しようとするギーグの陰謀をくいとめる、と言う内容。日常的でありながら非日常的な 世界観のゲームといえる。

任天堂のマザー2のページ


●はじめに

 僕にとってマザー2というゲームは、僕が生まれてからやったゲームの中でもっとも感銘を受けた ゲームである。そして、僕の価値観を根底から覆してくれたゲームでもあるといえる。 このゲームについてインプレッションを書いたら、かなり長くなった。長すぎるのではしょろうと思ったが、 魅力を伝えたいので全部載せました。

●システム

僕はこのゲームの世界観に惹かれたと書いた。それは、このゲームが、一つの世界としてそこに 存在しているかのような、丁度一つの箱庭的世界、糸井重里の内的宇宙があるかのような気がした からである。それは、このゲームのシステム、グラフィック、シナリオ、すべての要素がその世界観に うまくマッチしていて、....いや、マッチしているのではなく、それら全てが世界観の構成要因と なっているのである。

よく、システムがしっかりしたゲームやグラフィックが凄いゲームというのはあるが、「シナリオの 凄さ」と「グラフィックやシステムの凄さ」というのは、往々にして別のものとして語られることが 多いのだが、マザー2では、グラフィックやシステムが世界観を構成させるためにうまく成り立って いる。

例を挙げると、このゲームの戦闘は、HPがドラムのメーターの形になっており、ダメージを受けたり 回復したりすると、くるくる回るのであるが、たとえばHPが200の時に300ダメージを受けても、 ドラムが回転して0になる前に回復したり戦闘を終了させたりすれば事無きを得る、というシステムに なっている。これは、糸井重里曰く、「HPがだんだん減っていくんだ、っていう危機感を表したかっ た....丁度、パチンコでだんだん玉が無くなっていくように」という、その思想がよく現れているので ある。 勿論これ、別にATBでもなんでもないコマンド入力式のRPGには、ちょっと噛み合わない システムだとも思ったのだが、そういう批判はあまり聞かないし、むしろその焦ってコマンド入力して しまう自分に笑えてしまうのがスゴイ。

また、このゲームには「天才写真家」という人物が登場する。
彼は、主人公達が道を歩いていて特定のスポット(行くまで分からない)に行くと突然ファンファーレ とともに現れて、写真をとってくれるのだ。(こうやって撮れるスポットは32箇所あり、回った数に よってエンディングで見られる写真の数が変わる)
 僕は最初このシステムを知ったときに、「急いでいるときにこのイベントに会ったプレイヤーは、じ れったく感じることこの上ないんじゃない?」と思ったが、実際にあってみると、たとえ急いでいても なんか嬉しくなってしまうのだ。この、システムの制約を越えて「なんか実際に『うれしく』なってし まう」というのは、僕が他のゲームで感じたことの無い感触だっただけに、驚いた。

その他、「他のゲームじゃこんな所は絶対に作り込まないよね」っていう所まで 作り込んでいるなあ、 と思った。本当にこれは例を挙げるときりがないのだが、 たとえば、砂漠に立ってるスロットブラザーズで出来るミニゲームや、「道具屋の看板」 を使ったとき、本当にお客さんが来てくれ、それもきちんとその地形に合わせて障害物を避けてきて くれるところなど、「そこまでやるかい」的なところまでプログラムされている。本当に驚きだ。 勿論、ここまで作り込んでいるからこそマザー2は名作なのだ。
 このゲーム、発売は1994年だが、1991年ごろから発売予定に上がっていたにも関わらず、 なかなか発売されないのでやきもきしていた人たちの多かったこと多かったこと....それで糸井さん もファンの人たちからいろいろ言われていたようだが、僕はこのゲーム、これだけ開発に時間を かけだだけのことはある、とても作り込まれたシステムのゲームに仕上がっていると思った。

●グラフィック

よく、「ファミコンみたいだ」と批判されたこのゲームのグラフィックだが、僕は支持したい。 シンプルとはいえきちんとディテールまで書かれているし、何よりも色使いがものすごくいい。 本当にこの世界に入っていったかのような一体感を感じる。 それともう一ついうと、僕がこのゲームを初めてプレイしたころ、そのころのゲームがグラフィック にリアルさばかりを追求していることに本当に疑問を感じていたのである(その疑問はポリゴン全盛 期の今になってまた別の方面で疑問を感じているのだが)。

そのころのRPGは、FF6に代表されるように2Dでありながらリアルに描くのが主流だった。 そういうわけでFF6なんかリアルではあったが、みょうにリアルすぎてもはや何を描いているのか よく分からないようになってるパーツがあったり、ダンジョンとかにしてもどこが通れてどこが通れ ないのかまったく分からない(これはFF7ではより深刻な問題になっているみたいだが)という状 態だったので、僕はFF6は最後までやる気が起きなかった(「とりあえず最後までやってみなよ、 面白いから」と勧めてきた友達と一緒にやって何とかクリアだけはしたが)。

まあ、この現象は記号論から出発したRPGとリアルさがうまくかみ合っていない、ということで 説明が出来るので、試行錯誤すればこのふたつは融合するかもしれない、みたいな話になると思う のだが、今回はそういう話ではないので話を元に戻す。

閑話休題、マザー2は、そういうリアル指向のゲームに反旗を翻し(....たというわけでもないと 思うのだが)、「漫画的(Cartoony)」な手法を随所に盛り込んである。 たとえば、主人公達の乗った円盤(スカイウォーカー)が地面に衝突したときの演出などにそれが如実に みてとれる。 僕はこういう漫画的なグラフィックのゲームがあり続けてもいいと思っている。

....それともう一つ、このゲームはグラフィックがシンプルだと書いたが、それとは別にもう一つ、 「一枚絵やムービーがひとつもない」というのがこのゲームの大きな特徴なのであるといえる。 まあ、この特徴、当時のゲームでは珍しくなかったともいえるが、最近の2Dゲームといったら、 少なくとも主人公達の顔グラフィックくらい表示するのが普通である(まあ、こういうのを無理にやって いるゲームほど、B級、C級の評価を受けやすい、というはなしも聞くが....)。 それではそういうものが表示されないからといってこのゲームはつまらないかというと、全くそんな ことはなく、むしろシステム的な演出や台詞回しなどが絶妙なので「よけいな顔グラフィックなんかない 方がいい」と感じるのである。(まあ、僕という人間自体が、ゲーム中のムービー大嫌い人間だから よけいそう感じたのかも知れない。)

つまり、顔グラフィックなどの冗長な演出を排除して、別のところに力を注いで(そして容量を使って)、 結果的に話を盛り上げているというのがスゴイと思った。

勿論、すべてのゲームがそうなってもいいとは思っていない。「グラフィックの力に頼らない」というの は、グラフィックのいいゲームが沢山出ている中では本当に大変だと思うからである。むしろ、そんなな かで「演出」や「システム」がこけてしまったら、もう命取りである。だからスタッフに才能がないと出 来ないはずである。
その点、マザーはそういうところをうまくやっているので、僕にとって心のゲームとなったわけだが.... やはり僕みたいに、「ムービーとかグラフィックの凄さ」では満足できない人間っていうのがいる、むしろ リアルなものより素朴なグラフィックの方が好き、という人は結構いるわけで、そういう感じのソフトって、 もう少し出てきてもいいと思っている。

現在、マザー3が64DDで開発中である。画面写真を見ても、確かに3Dではあるのだが(これは時代の 流れだから仕方ないけど)、2から継承されてきた「漫画的なグラフィック」のイメージが損なわれていな いのに好感が持てた(森にいる奇怪生物達とか、砂漠を横切るユニークな形の戦車とか)。

●ストーリー、世界観

 糸井重里は、このゲームのことを、「いいものも、そして嫌なものも入っていて、そして俺の描きたいも のは嫌なものの方だ」と言っているだけあって、すごく生理的に嫌なものが沢山入っているのが、逆に 僕にとって新鮮だった
 その一番端的な例がゲップー。奴は絶えずゲップをしている。その実際にサンプリングされた音声が妙に リアルなので、プレイしていてとてつもなく嫌悪感を感じる。こういう「プレイヤーに生理的に嫌な印象を 与えるキャラ」なんていうのが平気で出てくるのがとてつもなく嫌で、とてつもなくいいのである。 そういえば下水道のダンジョンというのもあったな....汚い水の中に入らないといけないんだけど。
 そんな風に、このゲームに出てくる悪は「倫理的な悪」というよりむしろ、「生理的な悪」が多い。よくRPG と言ったら、「倫理的な悪」に重点をおいているわけだが、このゲームは違うのでいいとおもう。

 そして、悪役のポーキー。奴は主人公ネスの家の隣に住んでいる少年である。このゲームの重要人物.... もとい危険人物で、「ポーキーが主人公の冒険を何度と無く阻止し、最後の敵にまで助力する」というのが このゲームのメインストーリーといっても過言ではない。

 あと、ストーリーを語る上でではずせないであろう「どせいさん」の存在。みんなも一度はみたことが あると思う。どせいさんのしゃべり言葉には専用のフォントが用意されているのだが、この文字が 幼児が書いたみたいな字なのである。どうやらこれ、糸井さんの息子さんの字なんだそうだが、こういうところが 「よくやるわ」と感じさせてくれる。

まあ、ストーリーに付いては、わりとネタバレになる気がするので(今更ネタバレも無いと思うが)いろいろ 書きたいけど、詳しいことは書かないことにするけど、ものすごくいいです。

世界観については、システムとかグラフィックとかの項でずーっと書いてきたから、 あんまり書くことがないんだけど、そういう世界が楽しい理由として、街の人たちとの会話が楽しいことが 挙げられる。特に、全然関係無いことを言う人とかのせりふが楽しい。 特にコピーライターの糸井重里だけあって、台詞回しがすごくいいのである。
先日、このゲームの英語版である「EarthBound」をプレイする機会があった。それでちょっと やってみたのだが、この笑える台詞回しのひとつひとつがきちんと英語で再現されているのを見て、 すごく気持ちがよかった。

●ゲームバランスなど

このゲームはさくさくクリアできるバランスである。ゆえに、システムだけを楽しみたい人には物足りないと 思う。でも、純粋にストーリーとか世界観を楽しみたい人にはお勧めである。

なぞ解きで分からないところがあっても、ヒント屋にいけばその時に応じたヒントを教えてくれるのは本当 にいいと思った。

敵との戦闘もいい。「グラフィック」のところで書き忘れたのでここで書くけど、戦闘の時の背景のグラフ ィックがデジタルドラッグというかそんなかんじでうねうねとパレットアニメーションするのがいい。これは 必見。戦闘のバランスも、程よく調整されていて良い感じ。

●1と比較して

 ファミコンで出た「MOTHER(以下、マザー1)」にくらべて続編であるこの「マザー2」はどちらかというと 「冒険というより日常」という感じがする(それがいいとか悪いとかじゃなくて)。
「マザー1」は、突然主人公の自宅にポルターガイストが起こって、それによって主人公は冒険に旅立つ、という 感じで、湿地帯を行ったり砂漠(アドベント砂漠)を歩いたり、最後は険しい山(ホーリーローリーマウンテン)を 登ったりする。ゲームバランスがかなりきついのもあって(失礼!)かなり「冒険だなぁ」って感じだった。  一方「マザー2」の方は、ある日突然主人公の家の裏山に落ちたいん石の中から「ブンブーン」が出てきて、彼が 主人公に「お前は地球の未来を救う子供だ」と主人公の使命を告げられる。そうして旅立つ。旅先は、普通の村から 大都会、観光地(サマーズ)、ピラミッド、ジャングル(魔境)から原始時代のような世界(地底大陸)まで、 どちらかというと「観光」とか「日常」といったイメージがものすごく強いのである。ゲームバランスが計算され つくされていることもあって、あんまり「冒険」といったイメージが強くない。

 でも、僕は「2」の方が好きだ。これはなぜだろうと考えたのだが、やはり僕自身が現実世界の楽しいことを まだあまり知らないからだと思った。そう言えば糸井重里もこんな事を言っていた。「本当に面白いことなんて いうのは、ゲームの外の世界に沢山ころがっているんであって、僕が作るゲームっていうのはそれを掘り出すシャベルの ようなものだ」まさにそのとおりだと思った。

●総合評価

 ここまでいろいろ書いたけど、まだまだかきたりない事が山ほどあるし、いくら書いても尽きることがなさそうな 気がする。(たとえばマジカントでの話とか、ムーンサイドでの話とか....)僕は既にこのゲームを 10回くらいクリアした。こうやってレビューを書いたが、ここで書いている文章なんてものにはあんまり 意味がなく、僕のこのゲームに対するただならぬ情熱がある、ということが伝わればそれ以上の言葉は必要ない とすら感じる。

僕にとってこのゲームは墓まで持っていきたいゲームである....でも、その前にMOTHER3がやりたい(^^;。


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