クッキングアドベンチャー

ジャンル:RPG
プラットフォーム:Win95/98 (RPGツクール95作品)
作者:前北晃司さん、前北陽子さん
種別:コンテストパーク入賞作品(フリーソフト)
ダウンロード先:コンテストパーク過去の受賞作品→RPGツクール95作品
入賞歴など:コンテストパーク1998年5月度入賞(賞金45,000円)、 98年度年間人気ランキング3位

ゲームの内容: イカナの村に住む、料理店の一人息子の主人公「コト」。 客にケココ焼きを出すべく材料を調達して作り上げるのだが、 何とその客から食い逃げされてしまう。食い逃げ犯を追うために 旅立つことを決意。料理の腕を活かして、世界中を飛び回り、 様々な問題を解決していく、痛快のRPG。


ポップなシナリオが主題にジャストミート

「クッキングアドベンチャー」は、そのタイトルから分かるように、 主題は「クッキング」すなわち食べ物にまつわる様々なエピソードを扱ったRPGです。 主人公は料理店の跡継ぎ(本人にはその気はないが)、ということもあって、 様々な人に料理を作ってもてなし、料理の腕を伸ばしていきます。

ところで、食べ物にまつわるゲームは昔からいくつか出ていましたが、 どれも、「食べ物が絡むと殺伐とした雰囲気になるなあ」と感じるものばかりでした。 ゲームボーイで出ていた「ビタミーナ王国物語」を例に挙げると、 このゲームも食べ物をモチーフにした敵が多数出てくるのですが、 例えば「イトコンローパー」のように見るだけでかなり食べ物に対して偏見を 持ってしまいそうな敵ばかりなのです。

一方、この「クッキングアドベンチャー」は、どうでしょう。とてもいい感じです。 プレーしていて「食べ物のよさ」「美味しい物を食べることこそ人生の至福」 といったことを実感させてくれます。 どうしてそんな違いが出てくるのでしょうか?それは、 シリアスタッチではなく、「ポップでキュート」に描かれているから、 なのです。

このゲームでは、食べ物は 「戦いの対象」ではなく「あこがれの対象」になっています。 ゲーム中何度も、「俺はうまい物が食いたい!」という敵に料理をもてなしたり、 戦争が起きそうなところを空腹の敵兵達にごちそうを持って行き戦いを調停させるなど、 食べ物が問題解決のキーとなるイベントがあり、 「食い物があれば世の中ハッピー」ということが主題になっている、 と感じさせてくれます。
このように、シナリオは実に単純で平和でポップであり、 他の食べ物ゲームのような「食糧をめぐって血なまぐさい争いを繰り広げる」とか、 「子供が食べ残したピーマンが化けて襲ってくる」とか、そういった憂うつな 展開は皆無です。 食べ物のシナリオで憂うつな展開を持ち込むと、どうしてもその食べ物に対する偏見やトラウマを 持ってしまいます。シナリオがポップでキュートだからこそ、そういった偏見やトラウマから解放され、食べ物のありがたみが僕たちに純粋に伝わってくるのです。実に見事です。

世界観やグラフィックもいい感じ

そして、そのようなポップでキュートなシナリオを盛り上げるように、世界観や それを構成する登場人物、そのグラフィックなどなど、も実にいい感じです。

まず、グラフィック。多くはデフォルトパーツなのですが、 主要なところは描きかえてあり(後述しますが戦闘関連のグラフィックまわりは秀逸です)、 非常によい雰囲気を醸し出しています。 特に敵キャラ。キノコもどきや昆布もどき、そして骸骨、など、どうも憎めない キャラばっかりです。そしてそんな敵のキャラクターや仕草。これが最高にいいです。 キノコと骸骨の漫才(突っ込まれた骸骨の骨がはずれてしまう)など、 とても良いセンスが出ており、どこか憎めません。

そしてここ、「主人公とどこか間の抜けた敵達とのやりとり」に主題が見え隠れします。 例えば「食べ物をくれたらここを通してやる!」というキノコ。 あまり強くないので倒してしまってもいいのですが、焼きソバを持っていってやると、 感激して喜んでくれ、珍しい武器(キノコスティック)をくれるあたり、 実に「食べ物があれば争いもなくなり超ハッピー」というこのゲームの主題を 見事に言い表しています。
....このように、ボケとツッコミしか無い単純さ、 そこからくる軽いノリの登場人物だからこそ、 「食べ物が大事」という主題が、自然に表現できるのです。

趣向が凝らされた戦闘

さて、このゲームのシステム面も見てみたいと思います。 「雑魚バトル」に焦点をあてます。

一般に「雑魚バトル(エンカウント)を入れると、ゲームのテンポが悪くなる」といって 雑魚バトルを敬遠する傾向がつよく、実際、これまでのRPGを論じるときに、 「雑魚戦は必要か?」というテーマが必ず扱われるほどです。

しかし、「クッキングアドベンチャー」は雑魚バトルを入れているのに そういった批判は一切聞かれなかったし、何より「楽しい」と 感じることが出来ました。
どうしてでしょうか。
これは、「クッキングアドベンチャー」の戦闘が、 ポップな世界観に裏付けされた戦闘であり、 音楽、背景、敵キャラ、台詞回り、など全てがいい雰囲気だからです。
「敵対生物が現れた!」からはじまり、「〜よりあなたは強かった!」と出てくる 独特で風変わりな台詞回り、イントロが長調で始まり、「これが戦闘のBGM!?」 と思えるくらい軽いBGM。敵、背景、全てオリジナルのグラフィック。 「おもち人間」「じゃんけんガニ」など、かわいくて笑える敵キャラ。 ポップに描きかえられている魔法グラフィック。 画面の左右に幕があって、舞台を思わせる背景。 こういうのを見ていくにつけ、 「バトルというのは作業ではなく、ショーなんだ!」という作者の哲学を感じさせます。

そういうわけで、このゲームの戦闘は本当に楽しいです。 そしてそれはほかでもない、作り込みの成果であり、高く評価出来る点です。 実際、僕はRPGで多くのゲームでは後半の雑魚は逃げまくり、という風になりがちですが、 このゲームに関しては最後まで、相手をしようという気持ちにさせてくれました。

一般に、RPGをする人には2種類の人がいます。 「いちいち経験値稼ぎをするのは面倒」という人と、 「経験値をこつこつ稼ぐことこそが醍醐味」という人です。 僕の主観では本当にRPG好きといえるのは後者であると思うのですが (前者はむしろ「ADV好き」とか「ローグ(今で言うならトルネコや シレン)好き」が多いと思うのです)、どうもそういう「経験値稼ぎに主観が置かれているゲーム」 というのは最近流行らないような気がします。
そんななかで「クッキングアドベンチャー」は、趣向を凝らすことによって、単調な戦闘を 楽しくすることを突き詰めた秀作といえるでしょう。 経験値稼ぎが好きな僕としては、こういうゲームがもっと出てきて欲しいと 願ってやみません。

僕たちはイン、スタント食品で満足していないか

以上のように、楽しい戦闘やポップな世界観を通して、「食べることの楽しさ」 を改めて僕たちに思い知らせてくれます。
現在は「飽食の時代」と言われて、何かが食べたくなったら近くのコンビニにでも いけばたとえ夜中であっても手に入る、そんな時代になってきました。 しかし、そんな中で我々は「食べることに対して感じる幸福感や感動」というのを 失ってきたのではないでしょうか。 つい10年くらい前までは、美味しい物を食べると「ほっぺたが落ちる」なんて 言って感動していたものですが、もう既にこの言葉は死語になってしまった感が あります。それくらい我々は「食べる」事に対して無感動になっているのでは ないでしょうか。

前述の通り、このゲームの主題は、「食べ物があれば平和」であり、 魔王が人間を支配しようとしたのも「魔界には美味しい物があまりないから」 であるし、彼らも「腹がふくれれば」平和になってしまいます。 食べるというのは、とても大切なことです。食べることによって我々は 肉体的のみならず、精神的にもバイタリティを得ているのです。 生命維持のためだけに食べるのではなく、 食べることにより「幸福感を得る」ことを考えなければなりません。 クッキングアドベンチャーに出てくる傭兵達のように、遠征の時に持っていく、 あまり美味しくないと不評の「イン、スタント食品」。 食に事欠かないときに、このようなものしか食べないのは、 あまりにも情けないといえます。

そう、我々はこういう時代だからこそ、食のために熟考したり奔走したりすべきであり、 シェフの哲学が感じられるようなうまいものを一月に一度は食べるようにしたり、 時には健康のために粗食をしてみたりと、「食べること」にもっと哲学を持つことが 重要なのではないでしょうか。 そうしなければ、「食べ物の方にも失礼」というものでしょう。
うまい食材を捜して、それを料理してみんなにもてなすことによって争いを 解決していく主人公達を見て、ふとそんなことを感じたのであります。

RPGツクール95初期の秀作

最後に。このゲームがコンテストパークに登場した当時は、 まだまだRPGツクール95のゲームはそれほど出ていなかった時期です。 そんな中でこのゲームは結構話題になり、年間ベスト10にもランクインしています。 そして、登場してから既に2年が経とうとしている今でもしばしば話題にのぼります。 実際、今プレーしても十分楽しめるかと思います。良く出来た作品とは、時間が経ってから プレーしても楽しい物なのだ、と改めて感じさせてくれます。


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