Another Moon Whistle


 ノスタルジックな世界。
「ぼうけん」の楽しさ。
豊富なサブイベントや、作りこまれたマップ。
一見このゲームはそういった「子ども」の楽しさに満ちている。
しかし、逆にこのゲームには複雑な家庭環境と、二極化できない理論。
現実世界にある「不条理」が一杯詰まっている。
今回はそんなゲーム、「Another Moon Whistle」の紹介である。

 例えばこのゲームのコアには「勧善懲悪」の物語、「Xレンジャー」がある。
しかし、Xレンジャーたちの正義に疑問を投げかける形になっている。
そもそも正義とは何か。正しい事とは何か。
それをゲーム全体で問い掛けているように思える。
 この物語には「中学生の仲良し三人組」がいるが、それぞれに暗い過去が存在する。
彼らにはその人の生まれつきの性格、特性、環境に起因していざこざが起こる。
その喧嘩の理論は、どちらも正しく、どちらも誤っている
プレイヤーは常に何が正しいかを考え続ける事になる。

 また、純粋悪として描かれているダークムーンを除いては、
単純に善悪に分類が出来ないキャラクターしかいない。
少年Aがその最たるものである。
彼の考え方に共感できない人もいるかもしれない。
しかし、彼の理論は即ち今の社会が内包している問題の一つに見える。
いや、今の社会ではない。
常に存在していたのに今まで気づかなかった問題であろう。

 このゲームには「表象と固定概念」への警鐘も感じられた。
例えば神話における「イヴ」や「パンドラ」なども、
女性は「美しき災い」である、と言った固定概念を作り出している。
それを無条件に受け入れる事が出来ない、疑問を持った人が疎外される。
(例えば無痛分娩を「イヴの呪いからの開放」と言ったような)
例えばこういった疑問に対して「そう言うことを考えてはいけない」などと返答することはないだろうか?
そうして疑問を持つ事が禁忌とされている現代は考える事を押さえつけている。
そして、疑問を持って、考えてしまった人間が、それこそ異端視されてしまうのである。
果たして、プレイヤーはこのゲームをした後にいくつの自分の中の「固定概念」に気付いただろうか。

 さらに、「愛」や「思いやり」についても言及しておこう。
これは他のゲームでも良く見られるが、このゲームではそれはやや変則的に提示されている。
先程の中学生同士の喧嘩も、怒った側はもちろん相手のことを思いやっている。
しかし、それが相手にとって苦痛になっている、と言うこともある。
その時、相手を思いやる自分を何故理解してくれないのか、
思いやられているのは感謝しているが、自分の考えの押し付けで、何で自分を理解しようとしてくれないのか。
互いにこうしてすれ違いがおきている。
お互い冷静になればそれが見えてくるのだが、
それが見えてきても、やはりどちらにしても納得は出来ない。
それが浮き彫りにされているように見える。
 他にも、一般的にこのようなゲームでは主人公は絶対的な「善」である事が多いのだが、
主人公達は何らかの闇を心に抱いている。
悪を打ち砕く、といいながら自分の過去に行った悪を正当化する。
罪悪感を抱いてる場合もあるが、それから目を背ける為に正当化する。
それに対してのアドバイスは、一つではないはずだ。 相手のことを思ったからといって一つの答えしか出ないわけではないのである。

 このゲームには「現実に起こったこと」を巧みに織り交ぜられている。
バスジャック事件、タイムマシンのヤフオクへの出品、匿名掲示板…
それら現代の抱える「闇」や「混沌」として一言で片付けられているものを、
このシナリオではそれら事件は違う、作者の視点から見られている。
実際、これらの事件をニュースで言う「少年の心の闇」の一言で片付けられる問題ではないように思える。
この物語はこうやって、「画一的なもの」に対して全編を通じて警告をしている。

 しかし、気になったところがある。
まずはダークムーンの存在。
この「純粋悪」であり、Xレンジャーの敵である彼にもう少し倫理観を持たせても良かったのではないか。
あの存在一つで結局目に見えた悪ができてしまったため、
その一点で物語が薄くなってしまったように見える。
結局最終的に、ダークムーンの影響の一言で片付けられている事件がいくつかあり、少し残念である。

 さて。今度はゲームシステムについて触れようと思う。
このゲームはRPGツクール2000で作られているので、基本的なシステムは問題ない。
面白かったのは「日蝕」「月蝕」を初めとした状態異常の豊富さ。
日蝕になると太陽マークの技が、月蝕になると月マークの技が使えなくなる、と言うのは面白かった。
また、状態異常の効果が大きいため、ただ殴るだけよりも戦略によって戦闘が簡単になったり。
ただ、属性に弱くする魔法は、効果が大きすぎたような気がする。
殆どのボスがそれを使えば999ダメージを与えられるのは、難度を下げる原因になってるような気がする。
しかし、かといってそれの威力が弱すぎてもつまらないかもしれないが。
非常にバランスが良く、基本的に雑魚敵で戦略性が求められるようなつくりになっている。
しかし、もう少し敵を強くして、エンカウント率を下げればより戦略性が出たように思える。
他に全く突っ込むべきところが無いのがとても作りこまれた感がして良い。

 そしてマップの作りこみ。
徹底的に作りこまれたとしか思えないマップは、気になるところにカプセルが置かれ、
そこに直接行くことが出来ない、など非常に楽しいつくりになっている。
レベルチェッカー等が道を塞いでいるところも、一つの街で物語が展開する事も、
どれも「ぼうけん」や「箱庭的感覚」があって楽しかった。
ネタバレレビュー



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