「MoonWhistle」


長編RPGで良作は私が探すのが下手なのか、なかなかフリーでは見つけられません。
さらにそこにオマケ的要素を加えた作品、となると私が探した限りでは唯一つだけでした。
それがこのゲーム、「MoonWhistle」です。

このゲームの舞台は…幼稚園
主人公のぜのん君はゲームのプレイヤーとの接点となるべく、まったくしゃべらないように作られています。
初期のドラゴンクエストなどと同じようなもの、と思っていただければ。
ストーリーは誰もが持っていた幼少期の冒険の気分を味わえるような構成になっています。
例えばマップの緻密さ、広大な世界ではなく、基本的には限定された「自分達がいる街」だけで構成される世界観。
登場するキャラクターにもXレンジャーというヒーローが出現します。
(私は戦隊モノ、特撮モノを観た記憶がないのでこれについては何ともいえません)
他にも子供達の秘密基地なども登場して懐かしい気分になりました。
現代の子供はこういう遊びってするのでしょうか…
後半からはいろいろとシリアスな面、物語の暗部等が照らし出されていきます。
そういった面から考えて、このゲーム、台詞回し等は子供向けなのに物語の構造は子供には分かりにくいかもしれません。

ゲームとしては敵キャラのグラフィックが個性的で、
戦闘は敵の防御力がやや高いこともあり、戦闘一つ一つに作戦を組まないと、
あっという間にMPが切れるか瀕死になるということもあり、
また私がレベル上げと言う行為が嫌いなために、後半で一回の戦闘が終わるたびに瀕死になっていました。
しかし異常に強いとか、異常に弱い敵がいないんですよね。(自称最強小学生など、隠された敵を除く)
バランスが非常に練りこまれているのを感じました。
他にも、物語序盤で街を歩くと様々な場所で見つける宝箱、カプセル。
取りに行くとあっと言うかに死んでしまうものや、周囲が壁に囲まれていてまだ入れない場所など、
見えるけど取るのが大変といったなんとも絶妙な位置に置かれています。
そのほか、このゲームには隠しボスや隠し魔法など様々なやりこみ要素が含まれています。
ちなみに私はただ一つを除いて全て発見しました。
この隠された要素も幼少期の冒険気分を感じさせる要素の一つなのかもしれません。
私も一度クリアしたダンジョンをむかい来る敵なんのそので宝探しに精を出しました。

また、このゲーム、グラフィックや音楽も全てがオリジナルで、
町の人の話も物語が進むとちゃんと何パターンにも変わっていったりと、かなり作り込まれている感がありました。
純粋に「複数の街に行く」というよくあるRPGの街の人のように、「一過性の道標」では無い、ということでしょう。
例えばどこの街にでも「ここは○○街だよ」という人物がいますが、このゲームの場合はその人物は時間が経過すると、違うことを言うようになります。
そう言う意味で、「いろんな人に話しかける楽しみ」もありました。

シナリオについても色々と興味深い部分がありました。
例えば「Xレンジャー」。
本来このXレンジャーは「テレビの向こう側の世界の住人」でしかありません。
そのことに多くの子供は、成長の過程で気付いていきます。
ただし、このゲームでは実際にXレンジャーが主人公達の眼前に現れます。
他にも外に出ることが無い主人公達。
全ての事件が、主人公のいる街の中で完結しているのです。
また、主人公を含め、多くのキャラクターが様々な魔法を使うことができます。
(魔法、という表現が適切では無いと思いますが、ここではあえて魔法という表記をさせていただきます)
回復魔法や、「悪い大人」を退治する魔法。
この魔法も、「子供達の遊びの中の無意味な必殺技の叫び」とも取れます。
つまり、良く意味も無く必殺技の名前を叫んで遊んでいた少年時代のノスタルジア、とも取れるのです。
これら全てが、空想と現実が奇妙に入り混じった園児の心の中の箱庭的風景を表しているように見えます。
プレイヤーはこのゲームの世界ではなく、自らの心理的風景をこのゲームに重ねて見ることで、このゲームの真の構造が読み取れるでしょう。

ただ、以上のシナリオの構成のためにいくつか、納得のいかない点が出てくるのも事実です。
この物語の中で、一つ仕掛けがあるのですが、例えば「主人公を見捨てる」シーンがあること。
誰が、ということについての詳しい言及は避けますが、このゲームの中でこの部分以降が完全に別の世界となっています。
つまり、「自分の心の中にある風景から今自分が対峙している現実へと舞台を移した」ことになるのですが、
その経過点が、そしてその現実の解決方法が少し明確過ぎる、そして都合が良すぎる、と思いました。
きちんと決着を付けている、という意味では面白かったのですが。
それまでの過程である「心象風景」と対面した「現実」のギャップの接点としての「彼」の動きが明確に見えにくかった、ということが大きいでしょう。
もう一つはシナリオとは関係ないのですが、武器防具アクセサリに説明文が無いことが少し不満でした。
良く分からなくて買って装備できなかったり、
HP回復アイテムだと思って買ったらMP回復アイテムだったり。
これはRPGツクール95の仕様なのでしょうか?
だとするとしかたありませんが。

いろいろかきましたが、このゲームは本当にやり込めるゲームなので、
これを読んでまだプレイしていないのでしたら、ゲーム屋でRPG買う前にこれをやってみてください。
はまりますから。



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